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行き止まりは、どこにもなかった

行き止まりは、どこにもなかった

新!コテ派な日々~第十四話~(番外?Dead Data@第四話)

「うっ…う、ん…?」


あれからどれ程時間が経ったのか…。

気付けば、私は見覚えのない天井を見つめていた。

…まぁそもそも、私に記憶はないし、当然なのだが…

その前に下水道で倒れたんだ、何故また見覚えのない別の天井を見ているんだ?

今、私はどういう状態にあるのだろうか。まずはそこを確かめねばなるまい。

となるとまずやるべきはこのベッドから起き上がる事だ。

…ベッド?

馬鹿な。もしや私は誰かに助けられたと言うのか?都合が良すぎるだろう。

等と呟こうにもそこまでの気力は無く、何とか少しだけベッドから身体を浮かしたものの、それも一瞬。

ぽすり、と再びベッドへと落ちていった。

何とも情けない。どうやら私はまだ動ける状態では無さそうだ。


「おぉ。元気そうじゃん。気付いて良かったよ。ま、平気だと思ってたけどさ」


声に驚き、私はすぐ相手の方を振り返ろうとする。が、やはり体が動かない。

もし相手がまた死神女、死忘だったらまずい状況だ。

声は女性だったが…一体相手は何者なんだ…?


「いやー、君のお陰で大分データ取れて助かったよ。ま、君は災難だっただろうからあんま言えないけどさ」

「喋れる?聞きたい事とかあるんだけども。いや、本当君を最初見た時は驚いたよー」


「私以外に“Dead Data”のコテが出て来るなんてね。」


そう言うとその声の主はギシギシと何かを運んできて、私の近くまでやって来た。

恐らくはパイプ椅子か何かを出してきて近くに座ったのだろう。

何とか体を動かし、相手の方を向いてみる。なんだ?顔がよく見えないな…。白いコテなのは分かるんだが…。

こうなったらもう一度起き上がってもっと近くで…

そう思って身体を動かそうとしたが、声の主が制した。


「無茶しない無茶しない。普通のコテだったら死んじゃってるとこだったんだからさー。私が助けたからいいんだけども」

「まぁ、気持ちは分かるけどさ。私だって、自分以外に“Dead Data”見て結構驚いてるんだし」


…恐らく相手は死神女とは別のコテだろう。

に、してもだ。さっきから聞き慣れない単語が飛び交っている訳だが…

その辺を聞く事は可能なんだろうか。助けてくれた相手らしいし、話が通じない様な奴では多分無いと思うが…。


「な、なぁ…」

「おぉ、喋る位までは回復したんだ。でもムリしないよーにね?」

「あぁ…だが、どうしても一つ聞かせてくれ…さっきから言う、“Dead Data”ってのは一体なんだ…?」


相手は一瞬キョトン、としたかの様な雰囲気だったが、

ぽつりと「そっか、そう言えば私以外誰も知らないんだ…」と呟いた。

…心なしかどこか悲しそうにも思えたが、相手の表情がよく見えないのでもしかしたら気のせいかもしれない。

しかし、相手はそれ以上話を進めず、何か支度を始めた。


「お、おい…?」

「悪いけど、話は後。君の治療…1回じゃ足りなかったみたいだしさ。ジッとしててね?」


とだけ言うと彼女は私が着ていた毛布をどかすと、深く息を吸い込み、空中に向け、手を伸ばした。

精神を集中させいる様だが、何をしようとしているんだ?祈祷だろうか?

…まさかとは思うが、何か呪術や魔法の類…だとか言うんじゃないだろうな?そんな馬鹿な。

等と思っていたが、その考えが冗談や馬鹿げた妄想で終わらず、目の前に現れる事となる。

先程伸ばした両手の先の空中に、何か小さく集まり始めた。

傍目から見ればそれは、水の粒。それがどんどん集まり、琥珀色の塊を形成している。

どこから集まって来てるのかは全く分からないが、一体これはなんなんだ?

何らか攻撃だった場合、私は今動けないから避けられない。それを思うと何とか身体を動かそうと必死になっている。


「いや、動かないでってば」


そうは言われても、気づけば塊は私の身長など軽く超え、巨大化している。

これをぶつけられるのはそれなりに恐怖だ。固形物じゃなかったとしても、だ。

しかし、ある程度塊は大きくなると集まるのが止まった。

だが、大きくなるのは止まらずにどんどんと膨らんでいく。

かと思えば、突如塊はパンッ!と音を立てて弾け、雨の様になり私に降り注いた。

その水が触れる度に、何か暖かさを感じ、身体が楽になっていった。


  ハニー・レイン
「天からの恵み」


全ての水が消えてしまった後、試しに私は起き上がってみた。

難無く起き上がり、そのままベッドを降りる事すら出来てしまった。先程までの自分が嘘の様だ。


「凄い、力だな…。」


そもそも、このコテの世界は超能力者が居る事もしばしばだが、自分の周りにこういった回復が出来るコテは居なかった気がする。

それだけに、まさか、と思っていたが…本当に回復系の能力を持つコテだとは…。


「うん、回復はやっぱ早い方みたいね。この能力、治癒力を上げるだけだから治らない時は全然だもん。」


そう言って相手は良かった、と私の方を見ながら笑う。…笑っていると思う。声は。

判断が付かないのも当然だ。なんせ、相手も自分と同じ様に真っ白で顔のないコテだったのだから。


「色々世話になった…。ありがとう。それで、一体、君は?それに、この街は一体…」

「うーん、色々聞きたい事はあるだろうけど、1つずつにさせてね?えっと…」


そう言うと彼女は1つずつ丁寧に説明を始めた。

まずは、自分の事。気にはなってたから私はその紹介をしっかり頭に入れようと集中して聞く。


「まー、君と同じ様な感じだよ。名前も記憶も顔も無いコテ。“Dead Data”」

「さっきから言っているその、“Dead Data”と言うのは?」

「…私達みたいなのの通称だよ。ある人が付けたんだ。まぁエキサイト翻訳で言えば“死んでる情報”とか訳されるよ」


…いやそれ随分信用度の薄い翻訳だな。いや、それはいいや。

それよりも気になるのは、その状態に何故成るのか、そしてそうなった私達は今どういう状態にあるのか、だ。


「教えて欲しい、詳しく」

「って言っても私自身も細かくは…研究の途中で手に負えなくなったしねー」


頭の後ろで手を組みながら、「お手上げなんだよねー」と彼女は言う。

だが、それと同時に「一応今解ってるのはー」と話を続けてくれた。


「何らかの理由で一度“削除されたコテ”もしくは“封印されたコテ”がその正体じゃないか、との事。
    で、それらが不正規の方法で無理矢理、“削除されたまま”復活したのが今の状態、みたいな。」

「だから、“Dead Data”この世界におけるゾンビみたいなものかなぁ。
            だからさ、普通のコテとしてカウントされないんだよね」

「あ、カウントってのはこの街に昔は設置されてた“来場者数”の事。今はどっか行ったけどね。
    あと、この辺の話は全部受け売りで考えたの私じゃないから細かく聞かれても困るからー」


詳しい話は分からないとは言え、ある程度の状況は掴めた。

しかし、それらの情報を見つけ出したコテは相当な技術者なんだろうな…。

こうした情報が手に入るのは非常に心強い。地に足の着いた感じがする。


「ふむ…なら、直接聞いてみた方がいいな。その話の元となったコテは今、どこに?」

「えっ…」


そう尋ねた途端、彼女は黙りこくってしまった。

…先程見せた悲しそうな雰囲気も出ているが、もしや不味い事を聞いたんじゃないか?


「…まさか、既に…」


言うべきじゃないとも思ったが、聞いてしまった。

その問いに対して彼女は静かに頷いた。


「うん、虫にやられちゃってね。」


虫ってのはあの死神女の使っていた紅い奴か…。

アレの危険さは実際襲われた私だからよく分かる。しかし…。


「…。」

「…。」


本当に不味い事を聞いた。嫌な事を思い出させたようだ。

気まずい空気が部屋に流れ、二人とも押し黙ってしまう。何とか空気を変えなければ…


「そ、そう言えば…ここはどこだ?」


無理矢理に捻り出した質問で、空気を変えようと試みる。

しかし、それもまたどうやら地雷になった。


「…下水道の一角で、私“達”が作った部屋。もう長い事私一人で居るんだけどね…」


それは、つまり…彼女以外はもう、この部屋の住人は誰一人…。

完全に失言だった。空気の改善には全くなっていない。寧ろ悪化した。

それでも、私は諦めずに話を進めるしかない。

今後どうして行くかは重要だし、このままの空気にしておくのは余りにも私自身が辛いからだ!


「…この街で何が起こったんだ?」


一番気になってる事を私は尋ねる事にした。

気まずかろうとこれだけは聞いておかねばならないからな。結果的にそれが事態を好転させそうなんだが。


「…荒らしにやられたんだ。」

「あらし…?なんだと、荒らし!?」


荒らし。それはチャット等における迷惑な人間の事。

場を荒らす妨害者。それらは当然、こういったネットの世界ならどこにでも存在はする。

しかし、それでも私は驚かずには居られなかった。

それこそ、私の記憶の隅にもある通りだし、物語の始まりから言ってる事だ。


「この街の住人は基本戦闘能力が高かった筈だ…。
  荒らし如きにやられるヤワな奴など居なかった。有り得ない話だ!」


しかし、彼女は首を横に振る。

荒らし如きに、やられたというのか…?一体、何故?

そう思ってると彼女が重い口を開く。まぁ口無いんだが。


「…単純な能力では、ただの荒らし程度にはそりゃ負けないよ皆は。」

「だったら何故!」

「“ただの荒らし”じゃ、なかったから…。」


そう言われても全く想像が出来ない。

何がどう、“ただの荒らし”じゃなかったと言うんだ?

何らか荒らし専用のソフトでも入れていたと言うのだろうか?けど、それ位なら…

等、思考に耽っていた所、何かが飛んで来た。

例の、紅い虫だ。私に付いて来たのだろうか?しかし1匹だけなら流石に恐ろしい物ではないだろう。

と、思っていたが彼女が乱暴に立ち上がると虫を激しく睨みつける。いや、目はないんだがそう見える。

顔色も先程とは全く違い憎悪、怒りに燃え上がってるかのようだ。いや、色ないんだけどな。


「死ねぇえええええ!!!」


そう叫ぶと、彼女がまた、先程と同じく腕を前に突き出し、水を集める。

が、それはこれまでの物とは違い、どす黒く、彼女の今の怒りでも表すかのようだ。

先程よりも大分小ぶりだったが、その水の塊は激しい音を立てて射出され、小虫に飛んでいった。


ズダダダダダダッ!!


まるでマシンガンの様な勢いで飛んでいった水は、壁を抉りながら小虫を仕留めた。

が、水が全てなくなるまで攻撃は止まないらしく、少しの間壁を抉り続けた。

終わった頃には、壁には大穴、小虫など影も形もなくなっていた。


「はぁ…はぁ…」

「な、仲間を奪われたのは分かるが、虫一匹にここまではやりすぎじゃないか…?だ、大丈夫か…?」

「だ、大丈夫…はぁ…」


そう言いながら肩で息をする彼女はどう見ても大丈夫ではない。

額に浮かぶ汗だけでも分かるが、明らかに顔色が悪い雰囲気が出ている。

一度これは休んだ方が良さそうだ。


「その、まだお互い聞きたい事はあるだろうが…一度休憩しないか?」

「いや。続き話すよ」

「し、しかし…」

「聞いて。」


…何かどうしても話したいらしく、彼女は断固として休憩を取るつもりは無いらしい。

余程の物があるんだろう。これ以上止めるのは無駄だろう。


「…わかった。ただ、無理しないでくれよ」

「ん…平気、だから…」


まだ、顔色は悪そうだが…

冷静さ自体は完全に欠いてる訳では無さそうだ。

深呼吸をして息を整えている。

そうして落ち着いたらしい彼女の話は再び、始まった。


「…今から数ヶ月前。この街に一人の男のコテがやって来た。名前は“ロドク”」


…ん?


「…どうかした?」

「いや、なんでもない…。すまん、続けてくれ。」


何故だろうか。今、私はそのコテの名前に聞き覚えがあった様な気がした。

とはいっても今の私には何の記憶も残ってない。昔は知り合いだったのだろうか…。

しかし今はそれを思い出してる場合でも無いだろう。彼女の話に集中する事にする。


「ロドクも、最初は普通のコテだったんだ。けど、ある時おかしな事を急に言い出した」

「おかしな事?」

「『最強のコテになりたい』」


あー…まぁー…おかしいかもしれんが、最強のコテ(笑)は誰しも通る道だろう。そういうの作る人間ならば。

後々黒歴史になったりもするだろうが、大抵の人がそんな夢幻で固めて自分のコテを作ると思う。

だからこそ私も「別によくある話じゃないか?」と答えるが、彼女は首を振った。


「それだけで済んだんなら…良かったんだ。所詮、想像上とネットの間の世界。
      修行したりとか、コテの設定変えちゃうとかやりようは幾らでもある。強いコテなんて幾らでも居たもの」

「済まなかったと?」


小さく、彼女は頷く。

もし済まなかったとして、一体何がどうしたら今の状況になるのか全く想像もつかないが…。


「奴は…一番やっちゃいけない手段で最強になった。禁忌を、犯したんだ」

「禁忌…?とは?」


そう聞き返すと彼女は口をつぐむ。

…言いづらい事なのか?それとも、思い出したくも無い様な…?


「ウィルス」

「え…?」


以外な言葉に、私は思わず聞き返す。

ウィルス、だと…?生物兵器?バイオテロでも行ったのか?


「…この世界がネットの架空世界ってのは知ってる?」

「あ、あぁ…知識の上では。だから尚更ウィルスというのが…」

「…ウィルスはウィルスでもコンピューターウィルスだよ」


そこまで言うと彼女は、仲間の死でも思い出したのか、泣き出してしまった。

コンピューターウィルス…そうか…。

この世界がネットの世界、0と1、プログラムで出来てるならば

そこに住まうコテ達、私達もそう言った情報で出来ている。

つまり、コンピューターウィルスによる情報改変や情報の欠如は致命傷。

その上防ぎようがなく、どんな相手だろうとすべからく死に至らしめる恐ろしい力。

なるほど、禁忌と言われる訳だ。根本から殺す等、反則的過ぎる。


「…もしや、あの、紅い虫…。」


ふと思い当たり、私がつい言葉に出すと、彼女は小さく頷き、

弱々しく、呟く。


「ウィルスにやられた人は、どんどん衰弱して…死んでいくんだ…」


彼女は、それを目の前で見た訳だ。仲間がやられたのだから。

それがどれ程辛く恐ろしいことか、想像に難くない。

しかし、あの紅い虫がもしウィルスだとして…私はかなりアレに酷くやられた筈だ。

だとすれば、私も治療の甲斐なく死んでいく筈だが…今の状態は完治してる様に思うのだが…。


「何故、私は平気なんだ…?」


疑問に思ったままにするよりは聞いて疑問は晴らすべき。

相手が泣いてるからどうかと思う所もあるけども…。

私の状況もまぁ切迫してる方だしな。この街で今後も命は狙われるだろうし。


「…だって、”Dead Data”だもん」

「何?どういう事だ?」


彼女の答えに私は首を傾げる。とは言え、実際よく分からない。

”Dead Data”である事が何故あの虫の毒に対抗し得るんだ?


「…普通のコテと、私達の違いは?」

「情報が死んでいる、だっけか。…あ」

「そゆこと」


つまりは、あのウィルスは情報の改変、欠如を起こしてバグを引き起こす効能なわけだが

そもそも我々”Dead Data”はその改変出来る情報自体が殆ど存在しない。

だから、攻撃された傷が出来る程度で済む。

ウィルスにとって、我々は最も相性が悪い相手な訳だ。


「……という事は、唯一私達が奴らと戦える可能性があるのか…」

「…うん。私もそう言われたんだ。だから、今日まで準備を整えてきた」


何時の間にか泣き止んでいた彼女は、こちらをジッと見ている。

な、なんだ?これまでよりも真剣に私を見ている様に見えるが…。

そう思っていると、彼女はこれまでより真剣な声でこういった。


「…協力者が現れるのを、ずっと待ってた。君を助けたのも、その為。」

「お願い。私と一緒に奴らと戦って。そして、この街を…救おう」


言葉と共に彼女は手を差し伸べてくる。

あぁ、本当に妙なことに巻き込まれたものだ。未だに自分の記憶もない中なのにな…。

しかし、私は特に悩む事もなく彼女の手を握る。

なんせ、この先一人で調べようにも、危険が伴うだろうからな。こちらとしても協力者がほしいのだから。


これが私が街で初めて仲間を見つけた瞬間であった。




つづく


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